魂をつなぐもの』

私は昭和30年代の後半、ごく平凡な家庭の第2子長女として生まれた。

特に秀でた才能があるわけでもなく、元気だけが取り柄だった少女は、
やがて、一般常識の枠の中でごく平凡に生きる術を覚えた。
自分の中に眠る、遠い過去の記憶など知る由もなく…。

しかし、95年阪神大震災で被災。自分が思い描いていた常識や幸せの
価値観が、どこかずれているのではないかと感じはじめた。

97年秋、映画「地球交響曲第3番」を初めて観た時、魂が震えた。
中でも故、星野道夫氏がアラスカ先住民族に伝わるワタリガラスの神話
に自分自身のルーツを重ねていくシーンで、私の中の遠い記憶の回路が
動き始めた。

アラスカやカナダに住む、クリンギット族とハイダ族。
それぞれに語り継がれた神話は、今でも彼らの伝統的文化の根本として
息づいている。
何がどう作用してそう思ったのか自分でもわからない。
しかし、映画を観ながら「遠い昔、その神話が語り継がれていた場に、
私も生まれ育ったことがある。そして必ず私は彼らと会うだろう」と確
信めいたものを感じていた。

映画の中で観たストリーテラー、ボブ・サムと最初に会ったのは、98
年、鎌倉大仏の前だった。そしてその後、天河神社で幾度か会い、熊野
でも会った。彼と最後に会ったのは2000年。
明治神宮での催し「神話を語り継ぐ人々」の時だった。
この時、私はもう一人大切な魂の繋がりの友を得た。

クリンギット族の父とハイダ族の母の間に生まれたナイナ・フローリー
だ。

彼女は現在、アメリカの政策によって約40年間失われてきた部族の言語
や伝統文化を伝える活動を精力的に行っている。

彼女の叔母であるエリザベス(1911〜1955)は民族の権利推進活動のリ
ーダーとして活躍。現在ハイダ族の間では、2/16日が「エリザベスの日」
として休日となり、人権を考える日になっているという。

そんな活動的な面など全く知らず彼女と出会い、妙に懐かしさを覚えた。

彼女がアラスカに戻った後も、互いに連絡を取り合い、たまに近況報告
などしていたのだが、先月のはじめ、共通の友人であるyukoから、
メールが届いた。
「ナイナが11月、3年ぶりに日本に行くと言っているので、ayaさん、
オフィスTENで何かできないかな?」

私は、準備期間が短いのは承知の上だったが、他でもないナイナのこと
だと企画にとりかかった。
ナイナが来て神話を語るのなら、日本の神話「古事記」とのコラボレー
ションも面白いのではないか。そこで古事記の研究家であり「古事記の
ものがたり」の著者でもある、宮崎みどりさんに出演してもらえないか、
声をかけた。
また、アラスカの伝統的な「モカシンルームシューズ」を作るワークシ
ョップもしたいということだったので、その準備も同時進行にしていた。

でも肝心の会場探しは容易ではなく、毎度のことながら都内の会場押さ
えは至難の業だった。
アシスタントのキョウちゃんと、必死で探し、やっとのことで会場を押
さえることができた時には、ほっとした。

しかし、それから数日後、ナイナのお父さんが心臓の手術をすることに
なったので、様態が安定するまでアラスカから出ることは出来ないので
11月に行くのは無理だろう、と連絡が入った。
残念だったが、家族の病気なら仕方がない。
翌朝、会場をキャンセルし、みどりさんにも事情を説明して丁重にお断
りしようと思った。

ところが、明け方私は夢を見た。
写真家の故星野道夫さんがアラスカにいる夢だ。もしかしたら映画「地
球交響曲第3番」のワンシーンだったのかもしれない。
第一、日曜日に抑えた会場をキャンセルするのは、あまりにももったい
ない。私は映画「地球交響曲第3番」の上映会をすることに決めた。
そして、ワークショップの為に準備していた前日の会場では宮崎みどり
さんに「古事記のものがたり」を語ってもらうことにした。

準備を進めて半月ほど過ぎたある日、またしてもナイナから連絡が入っ
た。
「お父さんの手術は成功し、既に退院した。心配な状況から脱したので
家族から日本へこの機会に行っておいで、と言われている。もう一度イ
ベントを企画してもらえないか?」という内容だった。
勿論、嬉しかったので、快く了解した。ただし既に、映画「地球交響曲
 第3番」の上映を企画しているので、映画終了後に登場してもらい、
少しだけ話してもらうことになった。
私たちは、上映会&トークショーの準備を更に急ピッチで進めた。

が、である。

なんと、会場のダブルブッキングが発覚!!
もう、驚きを超えてたまげてしまった。
なんということだ。。。
考え直せということなのか。。。

私たちが押さえた会場データーが、どういうわけかその会館のコンピュ
ーター上から消えていた。
会場へ予約に行った際、受付の女性はわざわざ入力後、画面の色が変わ
り予約が入ったことまでその場で見せてくれたのに…である。
会場費は、10月末まででいいということだったので、のんびり構えてい
たのが良くなかったのか。
担当者の方が謝りに来たが、もう後から入った団体は、料金も支払い済
みなので動かせないという。

私たちは、振り出しにもどることになった。

そして、再度夜中まで会場探しをして、やっと夜区分のみ空いている会
場を見つけた。

夜のみでの区分だと、準備時間がほとんどない。
更に、映画の上映をするとなると、ナイナが出演する時間は皆無である。
私たちは、悩みに悩み考え抜いた末、思い切って映画「地球交響曲 第
3番」の上映をあきらめることにした。
配給会社のインフォメーションにも、上映予定を掲載してもらっていた
し、問い合わせも来ていただけに、正直なはなし苦渋の決断だった。

「原点に戻って、ナイナによるアラスカの神話と宮崎みどりさんの古事
記とを融合させた催しをしよう」

結論が出た途端、滞っていた風が、ふーっと抜けていったように感じた。

その時「それでいいんだよ」と、どこからか言われているような気がし
た。

私たちは、きっと目に見えない糸で誰かと繋がっている。
出会うタイミングなど、まったくわからないし、どんな出会い方をする
かもわからない。
しかし、天命をきちんと生きている限り、魂は自然と結ばれて、必ずど
こかで出会えるものなのだろう。

ナイナと一人でも多くの人を出会わせたいと思っている。